福島秀子は実験工房前後の 50 年代から魅力的な絵画作品を制作していました。その後、青の色彩に70 年代前半から精力的に取り組むようになります。「五月の振動」シリーズに代表されるキャンバス作品、またドローイング作品群にみられる水彩/グアッシュを用いた瑞々しい青は、一見シンプルながら線や不定形な滲みこみにより重層的な画面で構成され、福島が如何にこの「青」と真剣に取り組んでいたのかを伺い知るができます。
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福島 秀子 青
福島秀子《五月の振動II》1986
「水」と「青」との二つの存在は、互いに他を媒介し合う関係であるイメージが基底になっています。神話や詩、音楽、自然科学の中で「水」は常に人間の真相意識の根源にある存在です。地• 水• 火• 風に示される四元素説の宇宙観でも、私は「水」にもっとも強く惹かれるものを感じ、しかも「青」の色彩と結ばれたイメージで空間を呼び起こします。
紙の上の「水」と「青」の形跡を執拗に追い見つめます。時には、水を囲んで緊張した表面に浮き漂ってゆらめく「青」の変容に、意志的な方向づけをしつつ形を生成していきます。やがて、「水」と「青」とがひとつの混沌とした宇宙を内包しながら時を得て、白い紙に浸透していき、画面が深い密度をもって一体となった空間へと変貌するまで、この行為は重ねられます。
福島 秀子
『別冊 美術手帖』 Vol.1 No.1, 1982、夏号(6月) 美術出版社より抜粋